長寿丸が家族になったあの日

それは6年前のこと

長寿丸がわが家の一員になったのは2014年の5月半ばの金曜日。私は半袖のTシャツ姿でお店に長寿丸を迎えに行きました。

手続きをする間、ガタガタ動いたり、ときおり心細げな声でクゥーンと鳴く長寿丸に「かわいいなぁ」「よしよし早くウチに帰ろうね~」なんて話しかけながら立ち上がろうとしたとき、ペットショップの、下見の段階から対応してくれていた担当の女性がポツリと呟いたんです。

「この子は……ですよ」

「え?なんですか?」と聞き返すと、やや口ごもりながらも笑顔で「いや~この子は好かれますよ。犬にも人にも」って言ったんです。

すっかり気を良くした私は「そうなんだ~。その前の言葉は聞き間違いかな~。まぁあいいや」とすっかり忘れていたのです。

けれど、わが家に来てからおとなしかったのは最初の1週間くらいでした。

犬というよりまるで野獣

実家でも子犬をもらって育てたり、迷い犬や捨てられた犬など、いろいろな犬を飼っていたけど、こんなに暴れ、吠え、破壊する犬を見てショックでした。

木製のサークルはかじり壊し、家具もボロボロにし、ケージに入れれば隙間から歯をむき出して、体当たりで叩き壊そうとする。タイミングがわからず噛まれたことは何度かわからない。

自分達だけで飼うのは初めてとはいえ、長寿丸は血統書のある犬なのに……。

なぜにこんなに荒ぶるのかまったくわかりませんでした。

獣医さんに何度も駆け込み、『犬のきもち』の相談室に電話し、個人や自治体のしつけ教室にも通い、柴犬の飼い方の本も何冊も読み、思いつく限りのところに教えを請い、学びました。

されど大人しくなって欲しいという願いは叶わず。

夜、ケージに入れると鳴き止まないから、寝るときにはアイマスクと耳栓がかかせません。それでも毎晩のように寝不足なのに昼も眠れなくて、ご近所迷惑を考え、神経がささくれていきました。

もういらない!こんな犬!
私には無理。
もうやだ、いらないよ。
これは犬じゃない、悪魔か怪獣だって。

今考えたらとても正気じゃないし、最低なことを口にしていますが、あの頃は周囲にこんな状況にあることを隠していたので、気持ちを吐き出す場所もなく、どんどん追い詰められていくばかりでした。

長寿丸が夜中までウォンウォン吠えているのに、平気で眠れる夫の神経にも腹が立って、夫婦喧嘩も増えました。「何もかも私に押し付けて!!」と。

これも今にして思えば八つ当たり以外の何物でもないのですが。

この頃、サークル内に敷いてるのが新聞なのは、おしっこシートだとビリビリにした後ポリマーを食べちゃうからです。新聞だと美味しくないからなのか?破くだけだったのですが、この音すらもうるさかった!

獣医さんの言葉で気づいたこと

それでも実家に預けなかったのはかかりつけの獣医、田中先生のおかげです。先生のなにげない言葉で、私は暗い沼から救ってもらいました。

ある日、フィラリアの薬を出してもらうために田中先生の病院に行った時、診察室に呼ばれました。「お薬をもらうだけなのになぜ?」と思いながら私が入ると、長寿丸を抱きかかえて先生は床に座りました。

「この子は他の子より元気がいいだけ、病気なんかじゃないよ。こうしてね、後ろから抱きかかえてお腹を上にさせるの。この時間を少しづつ増やしてみて。まあ、なかなか難しいけどね。(暴れるのは)そういつまでも続かないから、大丈夫だから」と笑って言ってくれたのです。
 
そしてようやく気づいたのです。
犬にだって個性がある。
同じ犬種でも1匹1匹性格が違うという当たり前のことに。

ドラマやCMで見るような扱いやすい犬を勝手に想定してそれに「当てはまらない」長寿丸を「違う!違う!こんなはずない!」と、思うようにいかないことにイライラしていたことに。

「いつまでも続かないから大丈夫」

先生に言われたことを信じて「今だけ今だけ」と思うと前ほど腹も立たず、逆に言葉で言えない分犬だってつらいかもなぁと冷静になることができるようになりました。

ある日のこと。

長寿丸が足元に来て、私の親指をペロリとなめた後、足の甲に顎を乗せ、ゴロリと横になるとスースー眠り出したのです。「ああ(私を)認めてくれたのかな」と思えたこの時が、家族になれた時なのかなと思っています。


今では「柴犬なのに珍しい!」そう驚かれるほど、ほとんど吠えない落ち着いた犬になりましたが、我が家にはこんな黒歴史があったのです。

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